|
中学生記者文化財取材コンクール 受賞作品
記事の部
平成十五年 京都市長賞 「伝えたい。文化財を守る心を」
京都市立醍醐中学校 菅原 麻貴
傘にぽつん、と雨音が響く。辺りにはかすかにお香の香りが漂い、雨に濡れた紅葉が鮮やかな秋色に染まっている。
ここは浄土宗の総本山、知恩院。私は去る十一月二十九日、このお寺を訪ねた。法然上人がお開きになられた、ここ知恩院では今、大方丈の保存修理が行われている。今回の取材では、屋根の葺き替え作業を見学させていただくことになった。
知恩院の大方丈の屋根には桧皮葺き、という珍しい工法が用いられている。桧皮葺きは、桧の立ち木に登り、めくった皮を材料に屋根を葺く。使うのは亀岡や丹波の桧だそうだ。長さ十三メートルのぶりなわという縄一本で、ビルの四階ぐらいの高さまで登ると聞いた時は、驚いた。
「みんな、先生に立ち木になってもらうからねぇ。」 おもむろに、職人さんが肩にぶりなわをかつぐ。木登りの実演のスタートだ。あっというまにみんな集まってきて、小さな人だかりができた。慣れた手つきで、立ち木役の先生の体に縄がかけられていく。
「もう、何年ぐらいされてます?」 「さあ、昭和十五年からやから…六十何年。」
職人さんの顔に、忘れられない、うれしそうな微笑が浮かんだ。
山から持ち帰った桧皮は乾かし、台形状に加工され、屋根葺きに使われる。今回は実際の屋根葺きの現場も見ることができた。足場へ上がると、目の前に、桧皮葺きの大きな屋根が静かに広がっていた。皆、食い入るように桧皮葺の作業を見つめ、足音とカメラのシャッター音だけが、しばらく響いていた。口で釘をくわえ、左手で厚さを感じながら、鮮やかな手つきで屋根を葺く職人さん。その背中からは、文化財に対する熱い思いがひしひしと伝わってくる。一枚一枚丁寧に、黙々と作業されていた。桧皮は、竹釘という竹の釘で、四分足、一.二センチの幅で葺いていく。きっちりと桧皮が葺かれた屋根はとても美しかった。とても目分量とは思えない。これが伝統の技というものなのか、と屋根を見つめた。一人の職人さんが一日に葺けるのは、朝から夕方までやっても畳二枚分以下。丁寧に時間をかけて作っていくからこそ、いいものができるんだなと思った。
今回の取材を振り返って私の心に残っているのは、桧皮葺きの伝統的な技もそうだけれど、何よりも、職人さん達の言葉と笑顔、そして文化財を守る心だ。私たちに熱心に説明をし、真心こめて作業をされていた職人さんは、とても輝いて見えた。そんな職人さんを見て、文化財ってただ美しくて立派なだけのものじゃないんだ、伝統と心があるんだ、ということを知った。そして今、私は強く思う。いろいろな人達の心を形にした文化財をずっと守っていきたい、文化財を守っていこうとする人々の熱意を伝えていきたい、と。
戻る
トップへ
|